大判例

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東京高等裁判所 昭和27年(う)2340号 判決

被告人 鈴木良

〔抄 録〕

農業協同組合長の支配に属する同組合所有の金員は、たとえ、これを保管のため他の機関に預け入れた場合においても、これが金員は、同組合長の保管占有にあるものというべきところ、農業協同組合法第三十三条には、組合が理事と契約するときは監事において組合を代表する旨の規定があり、右組合長において自己又は他人の用途に供すべき資金として金員借受の名義をもつて右預金を引き出すには、その前提として少くとも該金員消費貸借の契約が、組合を代表する監事との間に成立したことを要すべく、従つて若し、これが成立の事実なきにかかわらず、組合長の独断をもつて自己又は他人の用途に供すべき資金として右預金を引き出すにおいては不法領得の意思の発現あるものとして業務上横領の罪の成立あるを免かれない。果して然らば、記録ないし証拠によれば、被告人鈴木良は、静岡県周智郡飯田村農業協同組合長としてその業務一切を統轄処理し、その資金を業務上保管して居た者であるが、昭和二十四年一月二十三日施行の衆議院議員選挙に際し、専ら、静岡県第三区から農民代表を標榜して立候補した足立篤郎の選挙運動資金の不足を補うため、被告人鈴木良を加えた五名の同組合からの連帯借用名義をもつて、監事の同意を経ることなく、ほしいままに同月十八日同郡森町所在の静岡県信用農業協同組合連合会周智支所において自己の業務上保管にかかる同組合の右支所に対する特別当座預金から金拾万円を支出してこれを相被告人石黒清に交付したことが明白に認められるから(従つて、その支出が、農業協同組合法第十条第一項第一号にいわゆる「組合員の事業又は生活に必要な資金の貸付」に基くものであるということもできない。)その所為が、業務上横領の罪に該当することはいうまでもなく、たとえ、右支出に当り被告人鈴木良において監事には独断で、同被告人を加えた原判示五名の者を連帯債務者とする組合宛借用証書を徴した事実があるとするも同被告人の右罪責に消長のあるべきかぎりではない。尤も同被告人は、右支出をするについて、足立篤郎の衆議院議員当選が、ひいては周智郡下の農業発展に利益をもたらすべく、従つて、飯田村農業協同組合の利益になることをも考慮に入れたことは記録及び当審事実取調の結果によつても窺がい得られないわけではないが、元来公職の選挙は、選挙権者各人の利害意思が自由な投票によつて表明されてこそその実を挙げることができるのであつて、農民代表を標榜する候補者の適不適は、農業協同組合の一部理事者の単なる主観によつて決定されるべき筋合のものではないし、(本件支出が、組合員の総意にかかるものであることは記録上全く確認できない。)それに、右の如き選挙費用の支出調達は、その実、足立篤郎個人の当選という利益を当面直接の目的としたもので、組合に帰する利益は、全く間接で、将来における寧ろ未知の事柄に属するところであるということができるから、たとえ、右のように、その支出が、窮極において飯田村農業協同組合の利益になるとの考慮に出でたとするも、これが事実により、不法領得の意思の成立が阻却さるべき筋合ではない。

(三宅 河原 遠藤)

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